ぺいちくのブログ

本と建築のブログです。https://twitter.com/paychiku

屋根について考えたこと

今年の初めごろから屋根の形についてずっと考えている。

きっかけは発注者(公共工事)からの指摘だった。

「なぜ(フラットではなく)切妻屋根を選択したのか」

といった質問だった。こういった質問がでてきたことについては正直驚いた。

40㎡程度のとても小さな平屋の建物で、構造は在来木造だった。在来木造にすることは発注者から最初に決められていた。木造なら当然屋根を架けるもんだろうと思っていたので。

敷地がとても細長かった(奥行き4m強しかなかった)のでプランに苦労しながら、模型で形を検討して配置的にも、内部から考えても一番しっくりきたのが単純な切妻だった。とても細長い平面形状になったので、それに単純に屋根をかけるだけでもおもしろいものができると考えていた。

おそらく担当者やその上司は切妻が単純であたりまえすぎる形だと思って、彼等が首長に説明するときの材料も欲しかったんだと思う。別に僕が首長に説明してもよかったんだが(直接説明することも今まであったので)。

「模型で検討してみて一番しっくりきた」では説明にならない(しっくりきたのは僕の主観だし)と思ったので、性能的なことから説明することにした。

「日中はできるだけ電気を使わなくていいようにトップライトを採用していたため、ある程度の勾配のある屋根が必要になる。片流れ屋根だと水上が高くなりすぎるので、切妻屋根にした」

といった趣旨の説明をして納得してもらった。

このことで屋根だけでなく建築の形(を説明する言葉)について久々に考えさせられた。模型でしっくりきたとかはあくまで僕の主観で他の人は違和感を感じるかもしれないし、そもそも片流れ屋根の水上が高くなりすぎるといったことも人によっては高く感じないかもしれない。

そんなことを言いだすと形なんて決めれないので、結局はこっちに任せてくれということになるんだが。

この説明の作文を考えるにあたって内藤廣氏が言っていたことを思い出したので、参考になると思い、あらためて読みなおした。

昔のJAの内藤廣の特集号に「内藤廣への42の質問」というのがあって、そのひとつに

"切妻の屋根をどうしてよく選択するのですか?"

という質問があった。内藤廣氏の答えは

"この形は世の中にもともとあふれているものなので、僕のオリジナルではないよ。切妻にするということは、あえて何もしないという意思表明に近い。ーーーある平面に落ちた雨を最短距離で建物の外に到達させるには決まった法則があるんだね。ーーー壁間隔の二等分線を引いてそこに棟をかけるというシステム。---「海の博物館」ではじめて切妻にしたのだけれど、18.5mスパンの屋根で雨を逃がすには、効率を最優先させる必要があった。ーーー入母屋でもよかったけど、シンプルなものとして切妻にした。当時は貧しい形だと批判もされたけど、そんなこととは関係なく、技術的な意味でできるだけシンプルにしたかっただけ。" (1)

といった技術面からの説明だった。

もうひとつは前にもブログで扱ったが、GA JAPAN 126 の「総括と展望」での発言

"昔の屋根は、防水機能をベースに、その存在が認知されていたと思います。ーーー具体的なファンクションとしての勾配屋根が求められたので、フラットルーフが選択できるのは、自ずと雨が少ない地域に限られたわけです。ーーー現代の屋根は、アスファルト・ルーフィングを筆頭に防水性能が格段に上がっています。つまり、機能的な意味が失われた時代に敢えて屋根を掛ける。そうすると、それ自体に何らかの別の意味が発生してしまう。例えば住宅においては、家族やコミュニティなど「建築の全体性を求める気分」を屋根が想像させてしまう" (2)

これは震災後の建築たちがこぞって屋根を載せているのは、「ひとつ屋根の下」的な雰囲気を出したいからだろ、という指摘である。この「ひとつ屋根の下」的なものと、最近多い「イエ型」はちょっと違うと僕は考えている。「イエ型」はどちらかというと倉庫的な突き放した表現をめざしていて、「ひとつ屋根の下」的なウェットなものとは違うはず。

技術的なことから屋根が決まることもあるだろうし、それ以外のことからも決まることもあるとおもう(ひとつ屋根の下的に)。別にこの10年で防水性能が格段に上がったわけではないが、「海の博物館」はやはり木造だから勾配屋根を選択したんだろう。初期の「ギャラリーTOM」で雨漏りしたからそのあとは屋根をかけることにしたんだと思うし。

僕が最近興味があるのは技術的なことから決まったことよりも、他の理由で決まった屋根たちのことである。倉庫のような「イエ型」が多いことと、「ひとつ屋根の下」的な考えから屋根を載せることなど、ほかにもあると思うけど、その辺を整理して見通しが良くなるような言葉がないかなあと考えている。

 

(1) 新建築社 JA hiroshi naito / p.118

(2) GA JAPAN126 / p.133